湖の透明度のシフト要因及びその安定性について 0. 要旨 透明度シフト要因について着目する。  浅く冨栄養な湖沼では、その透明度の安定状態が一つではなく、透明な状態と非透明な状態が、何らかの要因によって急激にもう一方の状態にシフトするような例が広く知られている(Scheffer 1989-; Jeppessen et al. 1990-; Blindow 1993-;他)。 <→遷移の例について> シフト要因についてのこれまでの研究によってさまざまな要因が挙げられおり、現在でも議論されている。 <→要素の例箇条書き> ここでは生産者同士の光と栄養塩をめぐる競争が特に重要な影響を持ち、底生植物の存在は透明度の上昇と透明状態の安定性に貢献すると考え、底生植物による作用について特に注目し議論する。 <→概念図> 透明度の変化の議論を行なう際には、単位体積あたりのクロロフィル量をその指標とするのが一般的である。溶存クロロフィル濃度は植物プランクトン量の指標とされることが多いため、ここではクロロフィル量に基づきプランクトンの個体群動態についての議論を行う。 底生植物による植物プランクトンバイオマスの低下に着目する理由の一つは、底生植物による栄養塩取り込みの効果(Moss et al.他)があげられる。 さらに富栄養な湖ではプランクトンによる底生植物の光の利用に対する制限が鍵になってくる。これは底生植物の成長に正のフィードバックが掛かる理由をよく説明する。 <→概念図> つまり、植物プランクトンと底生植物の資源をめぐる競争に着目することで湖の透明度の不連続性について、そのメカニズムや要因を探る手がかりになると考えられる。 モデルにより植物プランクトンと底生植物の資源(光・栄養塩)利用をめぐる競争系(生産者-生産者-環境)を考え、そこに空間的視点を取り入れ局所競争を反映させたときに、従来の数理モデルによる予測(Sheffer 1993; Xu 1999 など)とどのような違いを生じるかについての検討を行う。 <→Scheffer 1993のモデルについて> 従来のモデルとの比較・検討を行った後、「環境中の栄養塩の調節者」としての動物プランクトンについての要素を組み込む。これにより、捕食による直接的なカスケーディング効果を注目されがちな動物プランクトンの、湖の透明度に対する影響の別の側面についての議論を行う。